はじめに
まず、相続と言えば「遺言書」「法定相続分」という言葉が浮かびます。
今回は相続の方法、特に遺産分割協議書について、その位置づけ、内容、作成、効果について全体的把握を主眼に見ていきます。
一、相続方法の手順と優劣関係(位置づけ)
遺産は遺言者の私有財産そのものであります。
そこで民法の根底を流れる私的自治の原則が『遺言者の意思=遺言書』を尊重し優先的に相続の方法とされています。(民法964条)
この遺言書がない又は無効の場合は共有財産(民法898条)である遺産を全員の合意で、つまり相続人全員による遺産分割協議により全員の合意をえて遺産分配を決めることができます。(民法907条)
そして、この遺産分割協議でまとまらなっかった場合には、最終的な決定基準として法定相続分に従って決めていくことになります。
つまり、⓵遺言書 ②遺産分割協議 ③法定相続分の順で相続方法が採られるというのが原則です。
つまり、相続人全員が遺言書の内容と異なる遺産分割協議により納得・合意することもできると解されておりますが、あくまでも上記⓵~③が原則であります。
二、遺産分割協議とはどのようなものか
遺産分割協議において、相続人全員が参加し、話合いによって遺産分割の方法・割合について全員の合意を得て、まとめたものが遺産分割協議書です。
遺産分割協議で大切なことは、相続人の全員参加、全員の合意が無ければ成立しないと言う事です。
たとえば、相続人の中に痴呆症の人がいる(合意できない)、行方不明の人がいる場合(参加できない)は協議としては成立せず、成年後見人・不在者管理人等の選任が必要となります。
(ここでは詳細については割愛とさせて頂きます)
三、遺産分割協議書の作成・手順
・遺言書が無い・遺言書が無効である場合
・遺言書に記載されてない遺産が出てきた場合
・遺言書があっても相続人全員の合意のある場合
これらの場合に遺産分割協議をし、その合意を結論として書面にしたものが遺産分割協議書です。
その作成は下のような流れが一般的といえます。
<遺産分割協議の流れ>
1.相続人の確定・・・被相続人の戸籍の収集により確認・確定 ※下記の注記1で内容を詳述
2.相続財産の確定・・・プラス財産(不動産・現金・預貯金・株券等)とマイナス財産(借入・ロ ーン)の財産を明らかにし、それを財産目録にして、全体把握の可能な状態にする
3.遺産分割協議の実施・・・直接会わなくても、何らかの方法による意思の確認は必要
4.合意内容を遺産分割協議書として作成・・・定型の書式はない
◎上記の遺産分割協議で合意が得れなかった場合は、家庭裁判所の遺産分割調停・審判によることになります。
遺産分割協議書を作成する場合の必要事項は下の通りです。
<遺産分割協議書への必用記載事項>
・被相続人の名前、生年月日、死亡日、本籍の記載(本人を特定するため)
・ 遺産分割協議書に相続人全員が合意している旨の記載
・ 相続財産を具体的に記載(不動産は登記簿謄本のとおり / 預金等については、金融機関名、支店名、口座番号等で特定すること)そして取得者の名前を書く
・ 相続人全員の名前・住所そして実印で捺印(名前は本人の確認の上からも自署の方が良い)
※下記の注記2で内容を詳述
<注記の説明>
※注記1 集める戸籍等について
被相続人 :出生から死亡までの一連の戸籍謄本・改製戸籍謄本・除籍謄本等
住民票の除票又は戸籍の附票(不動産登記簿の住所と死亡時の住所をつなげるため)
相 続 人 :戸籍謄本又は抄本 (被相続人の死亡時後に取得したもの)
住民票(本籍地記載のあるもの)
※注記2 実印の捺印に添付する印鑑証明書について
相続登記においては有効期限はないが、金融機関で使用する場合は3ケ月、6ケ月の独自ルールがある
<遺産分割協議書記載における注意点>
・ 相続人が未成年の場合は代理人の選任が必要となり、代理人の実印と印鑑証明書が必要となります。
・ 預貯金の記載については、特定するため詳しく残高を記載すると利子等がついて当該財産と認められなくなるので、記載しない様にする必要があります。
・ 不動産等の所在地の記載は住所とは違うことが多く、登記簿通りに記載することです。
三、遺産分割協議書の提出が必要となる手続(提出先)
・ 不動産の名義変更(法務局)
・ 預貯金の名義変更・払い戻し(金融機関)
・ 自動車の名義変更(運輸支局)
・ 株式の名義変更(証券会社)
・ 相続税の申告(税務署)
※遺言書があり遺言書通りの遺産分割の場合、相続人が1人である場合等は遺産分割協議書は不要と言えます。
おわりに
今回は相続手続における遺産分割協議書の作成上の要件・流れ・必要とされる相続手続等を見てきました。
そこでは相続人全員の参加による合意を得て作成された遺産分割協議書という名の書面にしておくことが、上記三で挙げた相続手続きを進めるには必要であると言う結論に至りました。
そこで、相続開始においては早期に相続手続に着手し、さらに必用的作業を着実に進めていくための一助となればと考え書き進めてきた次第です。