はじめに
相続の手順は被相続人を見送った後に、まず遺言書の有無を確認します。
遺言書が有ればそれに従い、無ければ遺産分割協議によって相続手続を進めることになります。
相続のトラブルは遺産分割協議が「できない」・「まとまらない」ことがほとんどだとも言いえます。
それに対処できる一方策が遺言書の作成です。
そこで、まず遺言書を書くべき具体例を挙げて説明します。
次に、その中の一例について遺言書のサンプルで説明していきます。
1、 遺言書を作成しておくべき場合の例
1.相続人の中に判断能力が不十分な人がいる場合。
認知症・障害により判断能力が不十分な方がいる場合遺産分割協議はできません。
「成年後見人」の選任を家庭裁判所へ申立なければならないのでスムーズな相続には
なりません。
※このよう場合は後見人の選任があるまでは、遺産分割協議をすることができないため、スムーズな相続のためには将来の相続を見据えて、遺言書の作成をおすすめします。
2.行方不明者がいる場合。
行方不明の人がいる場合、相続人の全員参加とは言えないため、遺産分割協議をする
には、不在者管理人の選任を家庭裁判所へ申立てる必要があり、やはりスムーズな相
続にはなりません。
※行方不明の方がいる場合、将来のスムーズな相続を見据えて遺言書の作成をおすすめします。
3.推定相続人同士の意思の疎通が図れない(仲が良くない)場合。
・子供の一人だけが親と同居し介護をしたケース。
・親の生前に子供の一人だけが贈与を受けたケース。
・財産が自宅不動産だけであるケース。
・売れない農地等があるケース。
※このような遺産分割協議がまとまらないと思えるケースについては、遺言書を作成し、分け
方・配分などを書いておくことをおすすめします。
4.子供がいない夫婦の場合。
仮に残された妻と夫の兄弟姉妹が相続人となった場合、妻は夫の兄弟姉妹に遺産分
割協議書へ押印を貰わなければならなくなります。
残された財産が自宅不動産だけだった場合、兄弟姉妹がどこまでも自分の持分を主
張するといった最悪の場合、自宅を売却し相続分を渡さざるを得ないことになりま
す。
※このような事態を避けるため、緊急避難的に簡略でも要所を得た自筆証書による遺言書を作成
されることをおすすめします。(下のサンプルを参照下さい)
5.前婚の配偶者との間に子供がいる場合。
このような場合は、交流がなく連絡先すらもわからないといったことが結構あると聞きますので、その様な場合は遺産分割協議をすることが難しいです。
※このよう場合な遺産分割協議が難しい場合も、生前に遺言書を作成し、分け方等を
書いておくことをおすすめします。
上述しましたように、「相続」が「争族」となる可能性がある場合は、先立つ被相続人の『最期の意思』という形で遺言書を残すことの大切さがわかっていただけたと思います。
2、 遺言書のサンプル
遺言書には、よく使われるものとして自筆証書遺言(法務局保管制度含む)と公正証書遺言があります。
ここでは上記一、4の「子供がいない夫婦の場合」について、緊急避難的に作成した次
の自筆証書遺言を見てみます。
<例>
遺 言 書 遺言者 岡桃太郎は、次の通り遺言する。 1.妻 岡花子(昭和30 年1月1日生)にすべての財産を相続させる。 2.遺言執行者として妻 岡花子を指定する。 令和4年1月1日 岡山県岡山市北区岡山駅前町1丁目2番3号 遺言者 岡桃太郎(昭和25年21月3日生) ㊞ |
そこで、
民法第968条第一項の要件である全文、日付、及び氏名を自書し、これに印を押しているか、さらに、内容の特定・真偽をクリアーできるものとなっているか検討してみます。
<検討及び結果>
作成日:「吉日」といった不特定な表現ではなく、特定できる年・月・日で書いている。
タイトル:「覚書」などといったあいまいな表現ではなく、「遺言書」となっている。
本 文 :全文自書である。
一人分 :一人(岡桃太郎)分の1通の遺言書となっている。
遺言者の名前:自署している。
印 鑑 : 認印でも良いが実印が望ましい。実印は本人である真正証明になるからである。
サンプルは押印があるのでとりあえず要件クリアといえる。
(※実印は印鑑証明を添付することが望ましい)
相続財産:・特定の不動産の場合は登記簿謄本の通りに書くこと・・・(注意)上記遺言
書は特定不動産ではなく「すべての財産」と包括的表現の例で書かれている。
・預貯金は金融機関名、支店名、普通又は当座、番号を書くこと・・・(注意)
上記遺言書は特定預貯金ではなく「すべての財産」と包括的表現の例で書かれている。
相続人に対しての財産相続の表現:「相続させる」と書かれている。
※相続人以外の場合は「遺贈する」の表現であること。
人物の特定:人名の前に(続柄)後ろに(生年月日)を書くことにより特定している。
まず、上記民法第968条第一項の要件である全文、日付、及び氏名を自書し、これに印が押されており、要件を充足していると言えます。
次に、内容の特定のために題名を「遺言書」とし、人物を特定するため 人名の前に(続柄)後ろに(生年月日)を書いており、さらに真偽をクリアーするために実印を押印し、印鑑証明書添付がなされていればより充実したものと言えます。
上記一、4の「子供がいない夫婦の場合」は緊急避難的に上記サンプルのような自筆証書
遺言を作成することで、残された配偶者は相続財産を持ち続けることができます。
『わずか5分の遺言書作成』で遺された配偶者の余生は『天と地』の違いとなる例と言えます。
最後に、形式面・内容面の有効性から公正証書遺言の作成を推奨しますが、上記のような
緊急避難的、保険的な状況の場合は自筆証書遺言を利用して、まずは最期の意思を残され
ることがなによりも最優先されるべきだとも考えております。