はじめに
法律専門家として経験豊富な公証人が作成する公正証書遺言は、自筆証書遺言に比べ無効となることが殆どない遺言方法であると言われています。
そこで遺言書作成においては、相続時のトラブル回避の実現へ向けて、公正証書遺言を推奨する声をよく耳にしております。
それでは公正証書遺言の作成の流れに沿って、どれほどのハードルがあるのか見ていきます。
遺言完成に至るまでの流れ 補 足
1.遺言の希望案作成(メモ)
❶相続人の名前
❷主な相続財産
❸財産の分配方法
2.公証役場へ相談(無料)・依頼
❶電話、メール、FAX等により相談の予約
❷希望案(メモ)を使い、意向を伝える
❸公証人より作成上の説明・必要書類を聞く
➍納得後に遺言作成を依頼
3.必要資料等その他の準備
(右記は一般的なもので追加もある
❶印鑑登録証明書(発行後3カ月内のもの)
❷遺言者の戸籍謄本
❸遺言者と相続人の続柄が分かる戸籍謄本
➍相続人以外の人へ遺贈する場合には住民票の写し (法人の場合は登記事項証明書)
➎財産に不動産がある場合 又は固定資産税納税通知書
・登記事項証明書 と固定資産評価証明書
❻預貯金等
・通帳のコピー(金融機関名・支店名のわかる)
※預貯金の内容の分かるメモ(現在の金額がわかるメモ)
・そのほかの財産の内容が分かるメモ
❼証人2名の予定者について氏名・住所・生年月日・職業
(証人準備が無理な場合、公証役場でも紹介してもらえる)
・未成年者、推定相続人、遺贈を受ける人
・推定相続人及び受遺者の配偶者及び直系血族者
・公証人の配偶者、4親等内親族、書記、雇人 ※証人になれない人
4.公証人にメモ・必用資料類等 の提出
❶遺言の希望案作成メモと準備資料等の提出 ※メール、FAX、郵送等又は直接持参して提出
5.遺言公正証書案の作成と修正・確定
❶公証人は上記4で提出されたメモ等に基づき遺言書案を作成
❷遺言者はメールその他で送信された上記の遺言案に目を通す
❸遺言案に修正あれば申出、(案)の確定へ向けて詰めていく
➍遺言公正証書(案)確定
6. 遺言公正証書作成日時の打合せと確定
❶遺言者の公証役場訪問による作成日時を打合せ後確定
※公正証書作成手数料の金額も公証人より提示される(この金額算出となる基準を追補2で説明)
7.遺言公正書の作成当日
➊遺言者が公証人と証人2名の前で遺言内容を口述、公証人が筆記
※公証人は上記が判断能力ある遺言者の真意であることを確認
❷公証人が遺言内容を、遺言者と証人2人の前で読み聞かせる
又は閲覧させて、内容に間違いが無い事を確認してもらう ※間違いがあれば修正する
❸内容に間違いがなければ遺言者及び証人2名が遺言公正証書原本に署名し、押印する
➍公証人も遺言公正証書原に署名し、職印を押印し公正証書完成
➎公正証書遺言の作成費用を精算
二.追 補
1、遺言希望案(メモ)の(具体例)
<財産一覧メモ>
A銀行B支店 :1000万円
C銀行D支店 : 定期預金
ゆうちょ銀行 : 800万円
自 宅 : 京都八王子市
生命保険 : ⅹⅹ生命保険会社yy支店
養老保険 : ww生命保険会社vv支店
<財産一覧分配メモ>
A銀行B支店 :1000万円 ⇒ 妻
C銀行D支店 : 定期預金 ⇒ 長男
ゆうちょ銀行 :800万円 ⇒ 長女
自 宅 : 京都八王子市 ⇒ 次男
生命保険 : 生命保険会社 y支店 ⇒ 次女
養老保険 :ww生命保険会社vv支店 ⇒ 三男
2、公正証書遺言作成費用算出の基準
遺言書に記載する財産の合計額 手 数 料
100万円以下 5000円
100万円を超え200万円以下 7000円
200万円を超え500万円以下 11000円
500万円を超え1000万円以下 17000円
1000万円を超え3000万円以下 23000円
3000万円を超え5000万円以下 29000円
5000万円を超え1億円以下 43000円
1億円を超え3億円以下 43000円に超過額5000万円までごとに13000円を加算した額
3億円を超え10億円以下 95000円に超過額5000万円までごとに11000円を加算した額
10億円超える場合 249000円に超過額5000万円までごとに8000円を加算した額
(参照:公証人手数料令9条別表)
<具体的な手数料算出の留意点>
・財産の相続又は遺贈を受ける人ごとにその財産の価格を算出し、これを上記基準表に当てはめて、
其価額対応する手数料額を求め、これらの手数料を合算して、当該遺言構成表全体の手数料を算出
・相続財産の総額が1億円以下:11000円加算
・遺言書の中で祭祀承継者を指定する場合:11000円加算
・以前作成した遺言を撤回する場合:11000円加算
・公証人が病院や自宅に出張する場合:表から算定した手数料が50%加算
(さらに公証人の日当と現地までの交通費が掛かる)
3、公正証書遺言の保管期間
➀公正証書遺言の保存期間は、公証人法施行規則により20年となっています。
更に上記規則は特別の事由により保存の必用があるときは、その事由のある間は保存しなければなら
ならないと定められています。
②運用においては、遺言公正証書については上記規則の『特別の事由』に該当するとされ、半永久的に
保存している公正役場、遺言者の生後120年間保存しているところもあると聞きます。
まとめ
上記一.公正証書遺言作成概要の1.遺言の希望(案)を準備し公証役場へ相談すれば、公証人により多少の違いはあるかもしれませんが、上記の遺言書作成の流れに近い形で、公証人が公正証書遺言完成まで遺言の作成を先導されると思っています。
他に、もっと身近で、手間を減らし自由な雰囲気の中で公正証書遺言を作成したいと考えられる方は、仕業へ依頼する方法もあります。
その場合の手間としては、主として遺言の希望(案)伝達・公証人作成遺言案の確認(修正依頼含)・印鑑証明書の取得と遺言作成当日に公証役場へ出向くことで作り上げることができます。
どちらにするかは遺言者の選択によるところであります。
最後に公正証書遺言のメリットを再度確認させてもらいます。
自筆証書遺言に比べ費用と少々の手間が掛かる面はありますが、無効となることが殆どなく、信用性の高い、さらに家庭裁判所の検認が不要なことで、スムーズに相続手続きに入れるメリットが有ると言えます。
遺言を作成するにおいて最も重視されるのが『相続のトラブル回避』ということです、そのための有力な遺言の方式であると言えます。
以上、上記で公正証書遺言作成の全体像、さらにメリット・デメリットを見てきました。