はじめに
人が亡くなった時に財産を受け継ぐ人を民法は887条以下に子・配偶者・直系尊属・兄弟姉妹を法定相続人と定めており、又民法900条以下で法定相続分についても定めています。
そしてこれは相続手続においては、もっとも基本的な事項ともいえます。
ただ、相続分は財産を残す人(被相続人)の最期の意思である遺言、または相続人全員による遺産分割協議で合意により法定相続分とは異なったものとすることは可能であり、そのようになることがあります。 その場合は残される相続人の期待と生活維持の要請から最低限保障される割合、遺留分の制度があります。
今回は、これらを以下順次見ていきます。
一、法定相続人
まず、遺産を承継する人=法定相続人から見ていきます。
それは民法887条以下に規定されており、その内容は配偶者(亡くなった人の夫又は妻)がいる場合、配偶者は常に相続人になるとされています。
配偶者と共に第一順位相続人としては子、第二順位は直系尊属、さらに第三順位は兄弟姉妹とされています。
これらを整理しますと下のようになります。
【法定相続人】 : 【 内 容 及び 注 意 事 項 】
配偶者 : 常に相続人となる
子 : 第一順位(この中にすでに死亡している者がいる場合その子が相続人となる
※代襲相続 ・・・再代襲も可
直系尊属 : 第二順位(直系尊属の両者が既に死亡している場合は祖父母が相続人となる)
兄弟姉妹 : 第三順位(兄弟姉妹に死亡している者がある場合その者の子が相続人となる)
※代襲相続 ・・・一代のみの代襲
上記の者が法定相続人であり、相続順位でもあります。 子をはじめとする順位相続人は先順位相続人が一人でもいると、後順位相続人は相続人となれないということになります。 ただ、相続人が被相続人よりも先に亡くなっており、その者に子がいる場合はその子(被相続人に対しては孫)が遺産を承継(代襲相続)することになると言う点に留意してください。
二、法定相続分
次に、相続人間の相続の割合である法定相続分を見ていきます。
【 相続人の組合せ 】 : 【 法 定 相 続 分 】
●配偶者のみ :配偶者= 全て
●配偶者と子 :配偶者2分の1 / 子2分の1(子が複数いる場合は2分の1を頭数で割る)
●配偶者と直系尊属:配偶者3分の2/直系尊属3分の1(直系尊属が複数の場合3分の1を頭数で割る)
●配偶者と兄弟姉妹:配偶者4分の3/兄弟姉妹4分の1(兄弟姉妹が複数の場合4分の1を頭数で割る)
〇子のみ/直系尊属のみ/兄弟姉妹のみ:血族相続人が全て(同順位者が複数いる場合は頭数で割る)
<各自の相続分を法定相続分による算定例>
・それでは、夫(正夫)が亡くなり、妻(松子)と長男(竹夫)・長女(梅子)が遺産1000万円を 相続する場合を【例】として各自の相続分を見ていきます。
妻(松子)=2分の1である500万円、 長男(竹夫)・長女(梅子)は各自4分の1である250万円となります。
・ここで上記【例】で長男(竹夫)が被相続人より先に亡くなり、子が2人いた場合について見てみたいと思います。
妻(松子)=2分の1である500万円、 長女(梅子)は250万円と変わりはありませんが、竹夫の子(一郎と花子とします)は長男(竹夫)の相続分250万円を頭数で割り各自125万円となります。
三、遺留分
遺留分とは、上述しました法定相続人・法定相続分を基準にして、一定の相続人(遺留分権利者)が被相続人の遺産相続において保障されている最低限の取り分のことで民法1042条に定められており、被相続人の生前の贈与又は遺贈によっても奪われることのないものであります。
被相続人が財産を相続人以外の者に贈与又は遺贈し、遺留分に相当する財産を受け取ることができなかった遺留分権利者は、贈与または遺贈を受け取った者に対し、遺留分を侵害されたとして、その侵害額に相当する金額の支払いを請求することができるというものです。
では、以下内容を見ていきます。
1.遺留分権利者
すでに見た法定相続人から兄弟姉妹を除いた法定相続人となります。 ⓵配偶者(常に遺留分権利者) ➁子(代襲相 続人を含む) ③直系尊属(先順位に当たる子と子代襲相続人がいない場合に限る)
2.遺留分(総体的遺留分率)
民法1042条に直系尊属のみの場合が3分の1、それ以外は2分の1と総体的遺留分率が定められており、そして相続人が複数いる場合はその数字に各自の法定相続分を乗じた割合がそれぞれの遺留分になります。 それでは、ここにおいても先ほどの【例】で見ていきます。
【例】遺留分を算出するための財産は1000万円、法定相続人は妻(松子)・長男(竹夫)・長女(梅子)の計3人で特別受益は無く、夫(正夫)に債務は無く遺言書により相続分の指定が以下の通り。
遺言内容:妻(松子)200万円、 長男(竹夫)700万円、 長女(梅子)100万円 ※下の具体的相続分の数字となります。
それでは妻(松子)・長女(梅子)に対する遺留分侵害額を計算してみます。 <相続人は配偶者と子なので相対的遺留分率は2分の1で計算>
妻(松子) の遺留分=1000万円×2分に1(総体的遺留分率)×2分の1(法定相続分)= 250万円 長女(梅子)の遺留分=1000万円×2分に1(総体的遺留分率)×4分の1(法定相続分)= 125万円
⇓
妻(松子) の遺留分侵害額=(遺留分)250万円 ー (具体的相続分)200万円= 50万円 長女(梅子)の遺留分侵害額=(遺留分)125万円 ー (具体的相続分 100万円= 25万円
上記結論として、で妻(松子)は50万円・長女(梅子)は25万円について、長男(竹夫)に請求できます、これを遺留分侵害額請求権と言います。
つまり、これは遺留分を侵害された法定相続人が受遺者又は受贈者に対して遺留分侵害額に相当する金銭の支払いを請求できる権利です。
3.遺留分侵害額請求の対象となる遺贈・贈与とその順位等について
<負担順位> ⓵まず受遺者から負担 ➁受遺者が複数人であるとき又は受贈者が複数で同時に贈与されたものであるときは、その目的の価格に応じて負担する(遺言で別段の意思表示があればそれに沿う) ③受贈者が複数人ある場合は後に贈与を受けたものから順次負担していきます
<生前贈与についての負担範囲> 相続人に対しては10年間。 相続人以外に対してなされたものに対しては1年間に限り、相続開始に遡って負担することになります。
※相続人に対する贈与は婚姻もしくは養子縁組の為又は生計の資本として受けた贈与に限られます。 (民法1044条⓵③)
4.遺留分侵害額請求権の消滅時効・除斥期間
遺留分権利者が相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時から1年間、権利を行使しないと、時効により消滅します。(民法1048条⓵) また、相続の開始の時から10年間経過した場合、除斥期間により消滅します。
5.改正民法における注意点
特に注意すべき点は、以前「遺留分減殺請求権」と呼ばれていたものが、「遺留分侵害額請求権」と名称変更と内容が変更されたことです、以下内容を説明します。
●現物変換から金銭による清算へ変更 従来遺留分減殺請求によって、遺留分を侵害する限度において失効し、目的物の所有権等の権利は当然に請求権者に帰属することとされていたものが、改正民法においては遺留分侵害の精算は金銭支払いによることに一本化され、権利関係がシンプルになり使い勝手のよいものとなったといえます。
まとめ
法定相続人、法定相続分、さらにそれらを基準に算定される遺留分を上に上述してきました。 これにより相続手続において、法定相続人・法定相続分の内容をしっかり押さえておくことが、相続手続及び派生手続きを実施する場合の重要な基点になるということをみてきました。 今後は此れを基点とした相続手続を見ていきたいと考えております。