はじめに
遺言は遺言者の最期の意思を表明するもので、遺言者の意思に従って遺産の分配がなされことになります。
遺言によって相続をめぐる紛争を事前に防止する大きな効果が期待されます。
ただ、我が国において遺言の作成は諸外国に比べて低い、そこで近年の民法改正により自筆証書遺言作成の方式緩和により作成しやすく、また法務局による自筆証書遺言保管により幾つかの問題点をクリアする制度が創設されました。
それは従来の手軽で書き易い自筆証書遺言の長所はそのままに、遺言書の紛失や改ざん、方式の不備で無効になる、遺言書が相続人に発見されないなどといった問題点を解消する制度となっています。
この制度のメリットをまず列挙し、次に流れに沿って見てみます。
- 法務局による自筆証書遺言保管制度のメリット
- 保管手数料が3900円と安価(遺言者死亡後、原本50年・データ150年間保管)
- 形式的不備が無いかチェックをしてもらえる。 ※形式面から無効になるのを防止できる
- 死亡後に遺言書を保管していることを通知してくれる。(イ関係遺言書保管通知、ロ死亡時通知)
イ相続人等の1人が遺言情報証明書の交付又は閲覧を請求した時 ⇒ 他の全相続人等に法務局より遺言書の保管を通知。
※この通知は関係者が遺言書の存在を知らず、閲覧等をしなければ通知が送付されない可能性がある
ロ遺言者が遺言保管申請時に相続人等から1名を選び申出る ⇒ 遺言者死亡時に法務局より遺言書の保管を通知。
※イを補充し、相続人等が遺言書の存在を知らずに手続が進められることを防止できる
- 家庭裁判所の検認手続(通常1~2ヵ月を要す)が不要。
- ただ、遺言情報証明書を請求するには、下の検認申立書に添付する書類と同じものが必要
- 遺言者の出生から死亡時までの一連の戸籍謄本類(除籍・改製原戸籍)
②相続人全員の戸籍謄本
③相続人全員の住民票
※相続人にとっては煩雑にとれるかもしれない
二.申請から保管までの手続の流れ
1.遺言書の作成・・・下記の要件・ルールに則るものであることを要す。
・自筆証書遺言によって作成された遺言書を事前に作成する必要あり。
<民法第968条の概略要件>
➀ 遺言書の全文、日付、氏名を自書し、押印
② 自書でない財産目録を添付する場合は、その全てのページに署名・押印
③ 書き間違った場合の訂正などは、その場所が分かるように示した上で、訂正又は追加した旨を付記
して署名し、訂正又は追加した箇所に押印
・自筆証書遺言についての民法の要件にくわえて、本制度利用の様式のルールを守る必要があり。
<本制度利用の様式のルール>
➀A4サイズ
➁余白確保寸法
上側5ミリメートル
下側10ミリメートル
左側20ミリメートル
右側5ミリメートルの余白を確保
③片面のみに記載
➃各ページにページ通し番号を記載
⓹複数ページになっても綴じ合わせない
2.申請書の作成
- 申請法務局管轄
Ⅰ、遺言者の住所、
Ⅱ、遺言者の本籍地、
Ⅲ、遺言者が所有する不動産の所在地
※Ⅰ~Ⅲのいずれかを申請先に選ぶ
- 申請書の入手方法
Ⅰ、法務省HPからダウンロード
Ⅱ、最寄りの法務局の窓口で入手
- 申請書を作成する際の注意点
両面印刷不可、拡大縮小不可
A4サイズ厳守
汚れ・曲がり・変色等の用紙不可
申請書をコピーしての使用不可
- 申請書記入欄(注意点等の記載にとどめる)
-1.遺言者欄・・・遺言者の氏名、生年月日、住所、本籍を住民票等の記載通りに正確に記入ぺージ数の記入方法は<当該ページ数 / 総ページ数>で記入
-2.遺言者本人の確認・記入欄・・・申請に係る遺言書が、申請者自身が自書して作成したもので間違いがなければ、☑のこと
-3.受遺者等・遺言執行者等欄・・・通常は受遺者等又は遺言執行者等へ☑を入れる
両者を兼ねる時は、両方へ☑を入れる
※推定相続人対して「遺贈する」旨を遺言書で定めた場合は当
該推定相続人を受遺者として記入のこと
【例】配偶者居住権を遺贈する場合(1028条1項2号)等
・受遺者等・遺言執行者等の住民票上の住所を確認するなどして正確に記入
-4.死亡時の通知の対象者欄・・・遺言者の死亡を法務局が把握した時、遺言者指定の通知対象者
に遺言書を保管している旨通知する制度(希望時は☑のこと)
※対象者に指定できるのは:受遺者、遺言執行者、推定相続人
-5. 手数料納付用紙・・・3900円の収入印紙を貼るが、割印はしないこと
以上、法務省民事局発行の「遺言書保管申請ガイドブック」より抜粋し、申請書の記入欄の概要をみてきました、住所等記入時は住民票等通りに、また他の項目についても慎重に記載することを要します。
3.添付書類の準備
➀本籍と戸籍の筆頭者の記載のある住民票の写し等
(マイナンバーや住民コードの記載の無い作成後3カ月以内のもの)
②身分証明書(顔写真付きの官公署発行のもの<例:マイナンバーカード、運転免許証等・・>)
③手数料3900円分の収入印紙(上記2.-5の手数料納付用紙に貼る)
4.法務局へ保管申請予約
本制度のすべてに予約制となっている
- 予約方法は専用HP(365日24時間可能)
- 法務局へ平日の昼間に電話予約
- 法務局(遺言書保管所)の平日の昼間に窓口予約
※本人名で予約のこと
5.法務局(遺言保管所)へ出向く
➀顔写真付きの身分証明書で本人確認・・・本人自らの出頭が必要
②遺言書の形式など書類に不備が無いか確認
③「保管証」の発行(書類に不備が無ければ当日中)
遺言書の氏名、出生年月日、保管所の名称及び保管番号が記載されている
※遺言者及び相続人等のその後の手続で、「保管証」があるとスムーズに運ぶ
三.変更の届出について
法務局に遺言書を預けた後、遺言者は以下の変更が生じた場合は法務局への届け出が必要
・遺言者自身の氏名、出生の年月日、住所、本籍及び筆頭者の変更の場合
・遺言書に記載した受遺者等・遺言執行者等の氏名又は名称及び住所等の変更の場合
・死亡時通知者の氏名及び住所等に変更が生じた場合および通知対象者を変更する場合
※この手続はこの遺言書の内容を変更するものではありません
<変更届の流れ>
・変更の届出を行う法務局を確認する、手数料は無料、郵便も可、届出は遺言者本人のほか、遺
言者の親権者や成年後見人等の法定代理人も手続が可能
➀届出書を作成
・届出書に必要事項記入
※届書は法務省HPからダウンロード、また法務局(遺言書保管所)の窓口から入手
➁予約をする
・予約方法は専用HP(365日24時間可能)
・法務局へ平日の昼間に電話予約
・法務局(遺言書保管所)の平日の昼間に窓口予約
③法務局へ出頭し、変更届を行う
四.遺言書が保管されているかの検索システム
➀遺言書保管事実証明書の交付請求・・・死亡後に限って請求可能(手数料:800円)
➁保管されている場合の原本閲覧・・・(手数料:1700円/1回につき)
③タブレット端末に上で原本を(遺言書の画像データ)を閲覧・・・(手数料:1400円/1回につき)
➃遺言書の公的写しのような書面として遺言書情報証明書・・・(手数料:1400円/1回につき)
※遺言書情報証明書により実際の相続手続(相続登記や預金の解約等)をおこなうことができる
まとめ
法務局の自筆証書遺言保管制度のメリットを冒頭挙げて、次に申請の流れ、変更届、検索システム
と、この制度の全容をみることで、デメリットが見えてきたので、この制度を選択するときの参考資
料になればと、下に記載しておきます。
<デメリット>
- 保管できる法務局はきまっている
- 本人が法務局へ行く必要がある
- 写真付きの本人確認証明書が必要
- 遺言書の様式等に本制度独自の様式等に定めがある
- 遺言書の内容の確認をしてくれない
・氏名・住所等の変更届が面倒
以上の6点が浮かんできますが、遺言書の内容確認をしてもらえないこの点を除いては、必用的手間と言えるのではないかと考えております。
そこでまず、従来からの自筆証書遺言書との比較では形式面のチェックがあり、安全に保管され、相続開始の通知があること、さらに最も評価されることは家庭裁判所の検認手続が不要であること等に優位性があると言えます。
公正証書遺言との比較では、安価な費用、少しの手間、相続開始の通知があることに優位性があると言えます。
しかし、『遺言の目的は紛争の防止』にあると見た場合は公正証書遺言に優位性があります。
どの遺言方式によるかは遺言者の選択によると考えますが、遺言書の無効と言う事がほとんどない公正証書遺言をお勧めしますが、手間・費用といったことも無視できない要素といえます。
結論として、緊急・保険的には自筆証書遺言により、時間的にそして手間・費用面等が可能な環境となれば法務局の自筆証書遺言保管制度へと進んでいただき、紛争の防止を主眼に置かれる場合は公正証書遺言と考えます。
まずは、どのような方式であれ遺言書により自らの『最期の意思』を残されることをお勧めします。