遺言執行者の相続における権限・メリット

相続

はじめに

 遺言執行者は、まさに遺言の内容を実現するため選任され、職務を遂行する人であります。

 2019年の民法改正によりその権限・地位に変化がありました、それはかつては「相続人の代理人」と言われていたが、改正後は遺言内容を実現するための権限を行使できる中心人物といえます。

 その遺言執行者になれる人は、未成年者・破産者以外であれば誰でもなることができ、それは法人も可能で、さらに数人であっても可能とされています。

 しかし、職務遂行面からみると現実的には様々な相続手続に対応できる基礎知識を持った人物等(専門士業関係者を含めた)を選任することになります。

一、遺言執行者の主な権限

 まず、遺言執行者の権限をみることにより地位・職務が、より明確になると思い以下に列挙してみます。

【権限】

 ①相続人の調査および確定

 ➁相続財産の調査・相続財産目録書の作成

 ③預貯金・口座の払い戻し

 ➃株式の名義変更

 ➄保険金の受取人変更

 ➅不動産の相続登記の手続

 ⑦自動車の名義変更

 ⑧子供の認知

 ⑨相続人の廃除とその取消し

 これらの項目について、上述しましたように、かつての「相続人の代理」と言われる地位から法改正

により独立した立場で遺言内容を実現するため、相続人と利益が相反しても職務を遂行していくものと規定されております。 

 さらに、「認知」「相続人の廃除と取消し」は遺言執行者にしかできないものとされております。

 このように相続手続の主な手続きを、強力な権限をもって執行しているといえますが、相続税申告は

 相続人の義務とされており、遺言執行者の権限ではないことを付けおきます。

二、遺言執行者の選任方方法

 遺言執行者の選任については

 以下の3つがあります。

 ①遺言者は遺言で1人又は数人を遺言執行者に指定する方法

 ➁遺言者は遺言執行者の指定を第三者に委託する方法

 ③遺言執行者がいないとき又はなくなったとき、利害関係人は家庭裁判所に選任を請求することがで

  きる

 つまり、⓵➁が遺言者本人の指定するもので、③が遺言者の指定しなかった又はいなくなった場合等

 に家庭裁判所に選任してもらう2つに大別できます。

 後者は相続人間で利害に関しての意見の相違が発生した場合とか、又は距離的・時間的その他の困難

 事由により、遺言内容実現が難しいと思われるときに遺言執行者を申し立てる方法といえます。

 では、その場合の申立に必要な書類を次に挙げておきます。

【必要書類】

  ・遺言者の死亡の記載のある戸籍

  ・遺言執行者候補者の住民票又は戸籍の附票

  ・遺言書の写し又は遺言書の検認調書謄本の写し(家庭裁判所に検認事件記録が保存時は不要)

  ・利害関係を証する資料(相続人の場合は戸籍の謄本等)

  そして、申立先裁判所は「遺言者の最終住所地の家庭裁判所」となります。

四、遺言執行者を選任しておくべき場合

 ①相続人が多く、地方に分散居住しており、相続手続に負担が大きい場合

 ➁相続人同士の仲が悪い、法的手続に不慣れ等で相続手続が前に進まないと予想されるような場合

 ③子を認知する場合(必要的事項=民781条2項、戸籍法64条)

 ➃相続人の廃除、その取消し(必要的事項=民893条、894条)

 ①➁については、選任しておくことにより、相続手続の手間を省け又相続人間のトラブルの回避が図

 れ、相続手続がスムーズに進む効果があるといえます。

 ただし、③➃については選任が必要的場合ですが、実務ではあまり見かけないものといわれていま

 す。

五、民法の注目すべき改正点

 2019年の民法改正で注目すべき点として①遺言執行者の復任権➁遺言執行者の通知義務の2つ

 を挙げれます。

 ①遺言執行者の復任権

  これについては、民法改正前後において正反対ともいうべきものとなっております。

  <改正前>

   原則、復任権は認められていなかった。

   つまり、遺言執行者はやむを得ない事由がなければ第三者にその任務を行わせることができな

   い、但し、遺言者が反対の意思を表示したときはこの限りではないとなっていた。

  <改正後>

   原則、復任権は認められ、制限することができることとなりました(改正民法1016条)

   つまり、遺言執行者は自己の責任で第三者にその任務をおこなわせることができるが、遺言者が

   別段の意思を表示したときはそれに従うというものです。

   以上より、例えば遺言により相続人の一人を遺言執行者に指名し、その者が自己の責任で適任者

   に遺言執行の手続を任せることが可能となったとも言えます。

  ➁通知の義務

   従来、遺言執行者から通知がおこなわれず、相続人が知らないままに相続手続が進められ、後で

   トラブルとなるケースがあり、それを無くすための改正と言われております。

   <通知の義務の内容>

    ①通知時期 : 通知は就任時、相続人からの請求時、遺言執行の修了時。

    ➁通知者  : 遺言執行者

    ③通知先  : 相続人全員

    ➃通知の内容 : 遺言執行者に就任したこと・遺言の内容・遺言執行者として行った職

            務の内容・結果等について

    これらの義務が果たされない又は請求しても実行されない場合は家庭裁判所へ遺言執行者の解

    任を求めることができることになっています。

    また、遺言執行者と相続人の間で相続手続について揉めた場合に相続人は遺言執行者の解任や

    変更を家庭裁判所に次の2つの要件を充足する場合に申請できることにいます。

    【遺言執行者解任等要件】

    「利害関係人の全員の同意」「解任の正当な理由」です。

まとめ

遺言執行者を選任することより相続手続が、相続人間さらに対外的にもスムーズに進行するといえま

す。

特に、相続手続の中心的を成す「預貯金の払い戻し」「不動産の登記手続」をはじめとする相続手続が

遺言執行者単独で行える点に大きなメリットがあります。

つまり、上記「預貯金の払い戻し」「不動産の登記手続」時に相続人全員の捺印・印鑑登録証明書をも

らうという手間を省け、さらに時間的にも短縮できることになります。

もう一つのメリットとして挙げられるのが、遺言書の内容に沿った相続手続の遂行により、相続人間で

の意見の対立を回避できることにあります。

ただ、法律に沿って迅速に遺言手続を処理するには、専門士業に依頼していくことになる可能性が高く

なるため、その遺言執行者の報酬が必要になってくることを最後に述べておきます。

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